*悪役オムニバス*【短編集】
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それからというもの、魔法使いは調子を狂わされるばかりであった。
ユキノは容易く薪を割ってみせ、小枝を拾いに行くのだって、散歩気分で暗い森の奥に赴くのだった。
縫い物で指を差すことはしばしばだったが、それでも、魔法使いの元での生活を苦に思う様子はなかった。
それどころか、ユキノはひとりで勝手に森へと出かけると、どこからか籠いっぱいに林檎を積んできて、
「森の中に林檎の木があったんだ。
一緒に食べよう」
と、歩調を弾ませて帰ってくるのだ。
(珍しい姫もいたもんだ)
魔法使いは頬杖をつきながら思っていたのだった。
魔法でふわふわと浮遊する椅子に飛び乗り、それを楽しむユキノの姿は、とても娘盛りの少女には見えない。
そのくせ、魔法薬の調合を終えて床で眠っている時には、自ら布団を持ってきて、それを魔法使いにかけるのだ。
しっかりしているのだか子供なのだか、ユキノは魔法使い以上につかみどころがなかった。