一生に二度の初恋を『あなたへ』


斎藤くんぐらいわたしだって支えられるって思うけれど、こういうときも感情だけに流されず理性的になれるのが斎藤くんだってよく分かってる。



涙を流さず、ただ寄りかかるだけの斎藤くん。けどわたしには泣いているように見えた。



春さんが本当に好き。

本当に本当に好きで、逢いたくてたまらない。



『逢いたい人いる……?』


そう聞いたら絶対に斎藤くんは『春』って答える。


でも、その人はどこにもいなかった。


いると思ったのにどこにもいなくて、消えてしまっていて。



躊躇いなんてどこかに消え去ってしまったように斎藤くんの背中に触れて抱きしめた。



ねぇ、斎藤くん。


わたしが春さんだったらいいのにって。

今までに何回も思ってたんだよ。


こんなに愛されている春さんは、本当に幸せ者だねって。

わたしもこんな風に、斎藤くんに愛されてみたいよって。大事にされてみたいよって。


そう、何度も思った。願った。


でも、それは叶わないこと。絶対に。


そんなこと分かってるよ。

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