カンナの花
彼は会社を辞めた。周りの反対は聞かなかった。
今は雑誌編集のバイトをしながら、いくつかの大学の西城冬樹の講義に聴講生として通っているという。
安定していてかつ出世コースも見えていた仕事を手放して、いい歳して学生みたいなことをして、作家になるんだと宣言をして…世間一般から見たら、プー太郎でしかない。
なのに彼には奥さんがいた。会社をやめてからできた恋人。
正直なところわたしはその話を聞いて、その奥さんという人は、よくもまぁ結婚に踏み切ったな、と思ってしまった。
「オレはまだ何も結果は出してないけれど、こんな生き方してるやつもいるわけよ。
だからさ、佐衣ちゃんもさ、やりたいことあるなら、親の言うことばっかり聞いて、いい子ちゃんにしてる必要はないんじゃないの? 好きなことしたらいいじゃん」
あの時進路のことで揺れに揺れていたわたしは、きっとこのセリフを誰かに言ってほしかったんだ。