私は彼に愛されているらしい
食前酒のガスが適度な強さで凄く美味しい、もうこの時点でお店に対してはかなり満足していた。

でも、ふと思う。

私はどうして竹内くんとこんな敷居の低くないお店にいるのだろう。

ドレスコードを必要とするようなお店じゃないことから気軽には入れるお店ではあるだろうけど、竹内くんはどういう思いで私をここに連れてきてくれたのかな。

食事中に話すようなことではないと思い私はとりあえず疑問を飲み込んだ。

運ばれてくる料理はどれも綺麗で美味しくて、それに合わせてくれたお酒も飲みやすくて調度いい。竹内くんもお酒に関しては特に気にしてくれていたが、どれも満足していた。

「意外でした。清水さんって飲み会だと飲まないから酒は駄目なんだと思ってましたよ。」

「帰りが面倒だし、周り男の人ばっかりだからね。飲まないようにしてるの。」

「懸命な判断です。」

「ふふ。ありがと。」

食事の合間にする会話はほとんどが贅沢な晩餐の話で、仕事での他愛のない話も加わって凄く楽しい。

異性と食事を共にすることに歓迎できる方ではない私にとって珍しい感覚だった。だって気を張らずにリラックスして料理を味わうことが出来ている。格好つけて小食のフリもしていない。無理して話題を探すこともしていない。

なんかいいな、素直にそう思える時間だった。

コースの締めくくりであるコーヒーとデザートが出てきたところで私はまた感嘆の声を漏らす。小さなケーキ、でも見た目に拘った一品は私の心を跳ねさせた。

「きゃあ~可愛い!」

飴細工も飾られて凄くオシャレな演出、さすがはフレンチ!写真を撮りたいところだけどカメラもないし、第一こんなお店でシャッター音を響かせるなんてマナー違反だ。

これはもう思いきり目に焼き付けておこう。

かなりお腹にきてるけど別腹はまだまだスペース確保できますから。

「いただきます。」

一口頬張ると口の中から全身に幸せが広がってまさに至福の時だと感動した。美味しい、本当に幸せ。メイン減らしてデザート増やしてくれても全然問題ないくらいだわ。

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