狂愛苦
 ――美夢……他の男からこの名前を見るとは思いもしなかった……。


一瞬ドキリとまた鼓動が大きく波を打ったが、唾を呑み、震える指先でLIMEやメールを次々とスライドさせていった。


この二人はLINEでのやり取りが主のようだった。


「海藤さん、そうですね。またお話しできたら嬉しいです。うちの旦那様は比較的帰りが遅いので……夜ご飯を作り置きしてから……海藤さんの奥様は遅くなっても大丈夫なんですか?」


妻の問いかけに照らし合わせるかのように、今度は男のスマホをいじくった。途中男が入れるスタンプには、ハートマークが付くキャラクターが目立ち、神経を逆なでした。


男は海藤力也というらしい。そして男のストレージからは家族写真がたくさん出てきた。


子供は二人いるようだ。


3歳と5歳。二人とも可愛らしい女の子だった。奥さんと子供二人が一緒に写っている画像には決して偽りもなく、幸せな家庭に見えた。


そして写真には名前が付けられていた。


――すみれ3歳、つばき5歳、妻・貴子。
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