狂愛苦
 「……奥さんの名前は海藤貴子っていうのか。悪いけど電話帳の番号やメアドひかえさせてもらうぜ……お宅の家庭もぶっ壊してやる!!!!」


指先は器用に動き、瞬時に己の携帯に登録された。


すぐさま、この番号にコールをし、怒声を浴びせようとも思ったが、スマホを握りしめている手が震えた。


どうしようもなく小刻みに震えている。


激情し、血が熱く騒いでいるのに、それなのに良心の欠片が、そよ風のように心を冷やしてくる。


――冷静になれ……駄目だ……こんなの全然駄目だ……俺じゃない。どうすればいいんだ?


指先は違う方向へとコールした。


――トルルルルルル……トルルル……


「……はい、森山です。どなたですか?」


「森山さん……急にごめんね。ほら相談に乗ってほしいって言っていただろう?」


「え! この声は課長ですか!? ど、どうしたんですか!? 私に電話なんて初めてですよね」
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