大っ嫌いなアイツに恋をした。
「……早く行きなよ、屋代さん待ってる」
「今はそんなんどうでもいいし。つーか、お前さっき何て言おうとしたんだよ」
一度離れた橘だったけど、壁に手を付いてあたしを見下ろした。
「な、何ってそんなの聞くまでもないでしょ?嫌いだって言ったの。大っ嫌いだってあんたのことなんか」
視線を逸らして言うと、橘に顎を持ち上げられる。
「お前、また口塞いで欲しいのかよ」
その顔は怪訝、というか明らか怒っている。
近づいたと思えば、届かない。
どうしてこんなに素直じゃないんだろ。
どうしても、あと一歩が届かない────
「早く、行ってよ。あたしとはもう、関わらないんでしょ?」
違うの。
こんなこと言いたいわけじゃない。
「笹原は…俺が他の女といても何とも思わねぇのかよ」
苦しみに歪んだ表情であたしを見つめる。
「……思わないよ。だってあたしと橘は…」
「俺は無理だわ。ぜってぇ」
え…?と聞き返す間もなく橘はフッと笑った。