ブンベツ【完】


あの花屋の店主で駅でアルバイトのスカウトをしたヨシノさん。

4年前のあの日、逃げ道を作ってくれたのもヨシノさんだった。
いつものように優しい声で「ハナちゃんが嫌なら辞めてもいい」と、総てわかっての言葉だったんだろう。

カイさんの友人でもあり、アヤセさんの旦那さんでもあるヨシノさん。
私とカイさんの事も、カイさんとアヤセさんの関係を知ってる私の事も全部分かってくれてた。

「ハナちゃんにこんな悲しい思いさせたのは俺だね」って悲しそうに笑って謝罪をしたヨシノさんを今でも思い出せる。


あれはしょうがないことだったんだって、ちゃんと分かってる。

ヨシノさんが悪いわけでも誰が悪いわけでもなかった。
私には踏み込めない、カイさんとアヤセさんの世界があって。
元々あったそれを、私が、


「あ、起きてんじゃん。おはよう」


握ってたドアノブが私の力を反し勝手に捻り始め、ドアがスローモーションに開いていくのを感じた。

ドアの前に呆然と立ち尽くした私は、握ってたそれに前に引っ張られ体が前のめりになった。

見たことのない景色が視界に広がって引っ張られ所為で足が2、3歩踏み出した私の前にいたのは、


「綺麗になったな?元気だったか?ハナちゃん」


リアルな肉声が耳に届き、突然姿を現したヨシノさんに私はただ目を見開く事しか出来なかった。


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