私と彼と――恋愛小説。
「加奈子ちゃん…本気でお腹空いた」


玄関を開けるなり、佐久間がそう言って笑う。


「お疲れさま。直ぐに食べられるよ、座って待ってて」


「ありがと…お邪魔します」


相変わらず几帳面に靴を揃え、佐久間が部屋へ入る。


対面のキッチンから少し疲れた表情の佐久間が見えた。それでも私と目が合えば嬉しそうに微笑む。


「期待しないでくださいね。簡単なものしか作ってないですよ」


炊きたてのご飯とお味噌汁。焼き魚に和風サラダ、惣菜で買ったおかずを何品か並べただけの夕食だった。


佐久間に箸を手渡して、向かいあって私が座る。食卓に並んだおかずを見つめて…何故だか佐久間がじっとしていた。


「あの…苦手なものでもある?」


「いや…そんなんじゃ無いんだ。誰かの手料理なんて久しぶりだなって――」


「そんな大袈裟な事…」


「だって、本当だもの」
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