誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「宿泊ホテルの部屋には寝に帰るだけだし、しかも四人部屋。一人になる時間がなくて、落ち着かないよ」


 一人っ子で一人部屋での生活に慣れている佑典は、団体行動が苦痛な様子。


 「そっちは暑さはどう? 昨夜こっちは熱帯夜だったの」


 佑典は関東にある、コンクール開催地近くのホテルに滞在中。


 「暑いよー。夜でも28度とかあるから。ホテルはエアコン完備だから、逆に寝ている間に身体を冷やさないように気を遣うね」


 「あと二日、頑張ってね」


 うちの大学のオーケストラ部は近年レベルが高く、入賞間違いなし、もしかしたら優勝を狙えるかもと噂されている。


 「うん。何とか頑張るよ。早く全日程終了させて、帰りたいよ。・・・一刻も早く理恵に会いたい」


 会いたいと言われると嬉しいはずなのに、今はどこか切ない。


 上級生に呼ばれたらしく、佑典は慌てて電話を切った。


 月曜日の午後に戻ってくる予定なので、その日の夜に会いたいとのことで、時間と場所を決めた。
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