誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「内村、悪い。また後で」


 佑典はついに、内村さんとの会話を打ち切って私のほうへと向かってきた。


 取り残された内村さんの表情に、ありありと不平不満の色が満ち溢れる。


 それと彼女の取り巻きたち。


 F女子大の新入生グループは、実力者である内村さんを中心に固まっている。


 彼女たちは部内で「内村派」を形成しているらしい。


 フルートの次期首席奏者との呼び声高い内村さん。


 リッチなお嬢様的雰囲気を身にまといつつ、グループの中では女王様的存在というか、自然と座の中央に立ちそうな存在感だった。


 「理恵、ごめん。今日も来てくれてありがとう」


 今日の打ち上げも、立食形式。


 佑典は私の肩を抱きながら、窓辺へと移動する。


 それを内村さんとその一派が、冷ややかな眼差しで見送っている。


 ますます佑典へ気持ちは傾いていき、いっそ私と別れてしまえばいいのにと望んでいるのが分かる。


 ・・・肝心の佑典が、それに気づいていない。


 彼女からのアタックも、楽器を愛でるもの同士の仲間意識程度にしか考えていない。
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