誘惑~初めての男は彼氏の父~
 部の次代を担う期待の若手として、誰も彼もがVIP待遇、特別扱いするのも分からないわけではないのだけど・・・。


 「今日の定期演奏会をもって、活動も一区切りだ」


 窓辺で私に語りかける佑典。


 「これまで練習やコンクールにかかりきりで、理恵を待たせてばかりだったけど、これからはもっと二人きりの時間を大切にしたいと考えてる」


 「・・・まずは教員採用試験を優先させたほうが」


 佑典のまっすぐなまなざしが苦しくて、話題を逸らした。


 「そうなんだけどね。一年に一度しかないチャンスだから、まずは何としても一発で合格したい」


 このまま残りの単位を無事に取得し、卒業論文を提出さえすれば卒業は可能。


 ただし採用試験に合格できないと、卒業はできても就職浪人となってしまう可能性がある。


 「それだけは避けたいんだよね。だって理恵が卒業するのを待って、すぐに」


 「佑典・・・」


 ここが打ち上げの場ということも忘れてしまいそうなくらい、私たちの間には甘いムードが漂っていた。


 「こんなとこでいちゃつくなよ」


 やがて佑典は、出入りしているOBたちに冷やかされ始めた。


 そして私には、一部女子からの冷たいまなざしが・・・。
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