誘惑~初めての男は彼氏の父~
***


 帰り道。


 私は一人、横断歩道の信号が青に変わるのを待っていた。


 今日は寮から一キロくらい離れた場所で、車を降りた。


 もう夜更けだし、いつもなら寮の前まで送ってもらうのだけど。


 最近何かと身の回りが騒がしいし、噂を知っている人に万が一目撃され、決定打となってはまずいので。


 離れた場所で車を降り、少し歩くことにした。


 「こんな格好で夜道を一人歩きとは。通りすがりの悪い男を触発してしまいそうで心配だけど」


 別れ際。


 和仁さんは名残惜しそうに私の肩を抱き、最後のキスを交わした。


 「大丈夫です。防犯ブザー持ってますし。何かあったら速攻電話します」


 車を降り、一人歩き出した。


 片手には携帯を常備。


 バッグの中には、もしもの時のために防犯ブザー。


 私の住む寮は、比較的都心のオフィス街に近い。


 ゆえにこの時間帯は、人通りは途絶え・・・。


 自分の足音が、周囲の鉄筋ビルに反射して響いてくる。


 横断歩道の信号が、青に変わった。


 札幌都心の東側を縦断して流れる、創成川(そうせいがわ)。


 創成川の東西には、片側三車線の国道が走っている。


 そのため歩道が長い。


 のんびり歩いていたら中央部分、創成川を望む橋の辺りで信号が点滅し始めた。
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