誘惑~初めての男は彼氏の父~
 平日の都心部の外れは、夜も更けると人通りもすっかり絶えていて。


 寮が見えてくるまで、誰ともすれ違うことはなかった。


 時折通りを車が行き交うだけ。


 先ほどまでは重苦しかった夜風が、若干涼しくなってきた。


 このまま何事もなく、寮までたどり着けそうだ。


 ・・・和仁さんはそろそろ、郊外から隣市へと移動している頃だろうか。


 まだ運転中だろうから、メールで無事に帰宅したことを伝えようとした時だった。


 「!」


 寮の門まであと数メートルくらい。


 その時道路脇の自動販売機の辺りから、急に人影が現れた。


 「なっ、何なのですか」


 不審者だと思った。


 もうあと少しで寮の入り口なので、そこに駆け込めば守衛さんがいるはず。


 「あ・・・」


 駆け出す直前に、不審者の顔を確認した。


 「・・・佑典?」


 「おかえり。ずいぶん遅いご帰宅で」


 佑典だった。


 ・・・いつからここに?


 今日は高校時代の友人と飲むから、会えないって話していたのに。


 「な、何?」


 いきなり身を寄せ、抱きついてきた。


 きつく抱きしめられる。


 佑典の体からは、居酒屋で出される食べ物と、そしてタバコの匂い。


 佑典はタバコを吸わないので、一緒に飲んだ人か同じ店内にいた人から流れてきた煙が身に染み付いたのか。
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