誘惑~初めての男は彼氏の父~
 (・・・)


 佑典は反応に窮した。


 怒るわけにもいくまい・・・完全に佑典の勘違いだったのだから。


 泣きそうになるのを抑えながら、チョコを受け取ってどうにかその場を後にしたという。


 その日の帰り道のことは、全く覚えていないと。


 和仁さんはチョコレートを笑顔で受け取ったものの、息子の同級生である中学生のほのかな想いには、笑顔で「大人の対応」に終始したという。


 後になって考えれば笑い話ではあるけれど、その時の佑典はかなり傷ついたと話す。


 素敵すぎる父親を持つ苦悩。


 母親を亡くして以来、和仁さんの父親としての面にはどうしても疑問を抱いてしまう。


 写真家として活躍する面には、評価せざるを得ないのに。


 そしてここにきて・・・ふとしたきっかけで浮上した、恋人と父親の関係に関する疑惑。


 にわかには信じがたいことではあるものの、疑惑を払拭できずに私の元まで押しかけた。


 「ごめん。くだらない邪推でこんな・・・」


 夜風にあたっているうちに、佑典は冷静さを取り戻してきた様子。


 「そんなに謝らないで。落ち着いてくれれば私はいいの」


 嘘の上塗りをすると、さらに自分を追い込む結果になりそうで。


 私はそんな言葉しかかけられなかった。


 ・・・今回は確固たる証拠がなかったため、これで済んだけれど。


 完全に疑惑から逃れたわけではない。


 依然として周囲の人たちの間に広まっている、私の悪い噂。


 そして終止符を打てずにいる、和仁さんとの関係・・・。


 「理恵は・・・。俺だけのものだよね?」


 腕に抱きながら再確認された。
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