誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「和仁さん・・・」


 「僕がどんなに理恵を求めているか、声を大にして言い返せたらどんなに楽だったか」


 「私、」


 「でもそれだけはまずいから、ひたすら冷静さを保つよう心がけた。佑典が落ち着くようにね」


 「・・・」


 ・・・あの日佑典は、言いたいことを全て私に伝え切って、すっきりしたようで。


 以降和仁さんとの仲を疑うような発言は、全くなくなった。


 やがて夏は過ぎ、秋も半ばを過ぎていった。


 再び平穏な日々を、私たちは取り戻した。


 一方和仁さんとの関係は。


 オーケストラ部内の噂もあったし、何より佑典の疑念が再びぶり返さないよう気を遣っていたのもあって。


 しばらく会うのを控えるよう心がけていた。


 ・・・でも。


 会えない日々が続くのは寂しくて。


 時折隙を窺って、禁断の関係は継続していた。


 それぞれが幸せになるためには、私と和仁さんとの関係を終わらせるのが一番だと、互いに知ってしまった今でもなお。


 離れられずにいる。


 心に秘めた決意を口にしようと、会うたびに試みてはいるのだけど。


 ・・・会ってしまえば全てが崩れ去る。


 心よりもまず、体がこの人を断ち切れずに求めてしまう。
< 339 / 433 >

この作品をシェア

pagetop