誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「だったらどうして、一人でそんな決断したの。誰にも相談しないで・・・」


 「そうするしか、理恵を独り占めできないって判断したからだ」


 二人の間を、沈黙が流れる。


 「・・・確かに短慮に過ぎたと思う。結果的に来年一年間は、理恵と離れ離れになってしまったんだから」


 佑典は東南アジアに私を伴おうとしたけれど、親である和仁さんからも反対に遭い、私が卒業するまで待つことで妥協した。


 私も実家の母には結局言わずじまいだったけど、話したところで反対されたと思う。


 卒業してからにしなさい、って。


 「それから色々考えたんだけど、もしかしてあのまま待っていれば、北海道の遠隔地で採用された可能性もある。でも陸続きの北海道内だったら・・・。理恵に会いたくて頻繁に札幌まで車を飛ばしたかもしれない」


 「どんなに遠い場所でも、車で片道五時間くらい飛ばしたら会えるから」


 「逆にいつでも会える環境だったら、そっちを優先しちゃって業務に支障が出てしまったかもしれない。逆にそう簡単には会えない海外のほうが、まずは最善な気がしてきた」


 「離れていても、」


 気持ちを保つことはできるの・・・?


 そう問いかけようとした。


 「一年間は仕事に熱中するから、理恵も卒業に向けて頑張って」


 「就職活動も」


 「しなくていいから」


 今のご時世、就職活動は早い段階から、ともすれば大学入学後すぐに準備を開始しなければ手遅れになるという。


 でも私は結局、もうすぐ四年生になるというのに何もしていない。


 何もしないのは体裁が悪いので、公務員試験の予想問題集をぱらぱらめくっているだけ。
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