誘惑~初めての男は彼氏の父~
 夫婦間の問題が原因で自殺を選ぶなんて、よっぽどの理由があってのことだろう。


 借金問題とか女性問題とか。


 聞くのが怖い。


 ・・・佑典が順を追って語り始めた。


 貧しい学生だった和仁さんは、写真家として生きるためだけに、大学を卒業するとすぐに写真の師匠の娘と結婚した。


 「母さんの方が、五歳年上だった」


 一種の政略結婚。


 この結婚により和仁さんは、師匠の強力なコネと、その実家からの資金面でのバックアップを手にして、写真家として成功する礎を築いた。


 「結婚後すぐ、俺が生まれたんだけど・・・。父さんは相変わらずだった」


 家庭を得てもそれまでと何も変わらず、カメラ抱えて四方に飛び回り続けた。


 佑典の母親はそんな気まぐれな和仁さんに振り回され、孤独を募らせていったという。


 「撮影の際に北海道の景色に魅了された父さんは、勝手に北海道移住を決めた。俺が幼稚園に入った頃だったかな」


 本人はそれで幸せでも、振り回される妻は大変だったようだ。


 慣れない北の地での生活に疲れ、心身ともに消耗して行き・・・。
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