誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「だけど・・・。お母さんは死ぬほど思い悩んでいたの?」


 「俺もまだ子供だったから、母さんの心の中の孤独がどれほどのものだったか、理解できなかった」


 「・・・」


 「ただ母さんが死んでから、父さんに対するわだかまりがどうしても消せないんだ」


 「許せないの?」


 切ない表情で言葉を紡ぎ出す佑典から、目が離せない。


 「もしかしたら、誰のせいでもないのかもしれない。それでもどうしても父さんに対して壁を作ってしまう自分がいる」


 「お母さんが亡くなったのは、事実だしね・・・」


 「俺は将来家庭を持ったら、絶対妻や子供にあんな思いをさせたくないんだ。特別な才能なんてなくてもいい。愛する人と平和な生活を送りたいんだ」


 そう口にして、じっと私を見つめる。


 私との平凡な幸せを望んでいるの・・・?


 「理恵」


 佑典は不意に私の手を握った。


 「俺たち付き合ってまだ半年にも満たないけど、理恵とはこのままずっと一緒にいたいと思う」
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