誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「佑典。私ね、」


 その時私は衝動的に、何を伝えようとしたのか。


 罪の意識に苛まれ、とっさに和仁さんとのことを打ち明けようとでも?


 そんなことはできない・・・。


 「どうした? いきなり真面目な顔して」


 佑典は突然の私の思いつめた表情に、少し驚いた。


 その時辺りに、午後一時を告げる時報が鳴り響いた。


 「いけない、もうこんな時間」


 私たち共々、午後一時から三講目の講義を控えていた。


 いつも気をつけていて、ここでお弁当食べる時は12時45分にキャンパスに戻るようにしていた。


 なのに今日は、話に夢中で時間をチェックするのもすっかり忘れていた。


 急いでお弁当を片付け、ゴミは一袋にまとめた。


 そして講義棟まで駆け足。


 それぞれ別の講義なのだけど、同じ階なのでギリギリまで一緒。


 「理恵」


 駆け足の最中、佑典に名前を呼ばれた。


 「何?」


 「夏休み中、旅行行こうね」


 改めて念を押された。


 「うん・・・」


 断り切れず、承認の返事をした。
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