誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「そのニュース、記憶にあります」


 テレビで何度か目にした。


 この近辺で入水した人がいて、警察はこの界隈を捜索したけれどなかなか発見に至らず。


 しばらくしてから、数十キロも離れた小樽の海岸に流れ着いたって。


 湾の真横というか、斜め上の方角。


 湾内の潮の流れの複雑さを、その時知ったのだった。


 「あとこの海岸では、行方不明事件が何度かあったらしいね・・・」


 私が怖がるのを楽しんでいるのだろうか。


 まるで私の表情を確かめるかのように、和仁さんは私を見つめながら気味の悪い話を始める。


 「それも入水だったんですか」


 平静を装い、問い返した。


 「いや・・・。行方不明のままらしいよ。一説によると、海の向こうの国に拉致されたんじゃないかって」


 「今度は拉致ですか」


 どういうつもりなのだろう。


 ロマンティックな海岸で、次々と気味の悪い話を私の耳に吹き込むなんて。
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