誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「それでさ、その時の虹の写真に、」


 ぼんやり横画を見つめていると、急に和仁さんが顔を上げたので・・・目が合ってしまった。


 一瞬重なる視線。


 耐え切れずにたちまち目を逸らしてしまう。


 「きっ、綺麗な海ですね。月明かりに照らされて。穏かな海」


 「そうだね・・・」


 和仁さんはカメラを再び後部座席に置き、身を乗り出すように海を眺める。


 私との距離が少し縮まり、身構えてしまう。


 「そういえば・・・知ってる? この辺りの海は一見穏かに見えるけど、潮の流れが速いってことを」


 「潮の流れ?」


 唐突に話題を変えるので、少し戸惑って振り向くと、いたずらをしている子供のような表情で私を見ていた。


 「東西にものすごいスピードの、海流が沖合いを走っているんだ。うっかりビーチボールなんかを流してしまったら、たちまち遠ざかっていくんだよね」


 「そうなんですか」


 「ビーチボールばかりじゃない。死体もなんだよ」


 「えっ」


 急に死体の話を始めた。


 「去年この辺りで、入水自殺があったんだ。遺体はどこで見つかったと思う? 数十キロ離れた小樽の海岸だよ」
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