カノンの流れる喫茶店
天井近くにつけられた黒いスピーカーから流れてくるのは、カノンだ。

厳かで、なのに眠気を誘う間延びしたメロディは、このカフェを経営するマスターと、その彼女さんのお気に入りらしい。

ゆったりした曲に似合う、深みのあるコーヒーを出してくれるカフェの名前は、『Gulen』だ。

赤茶けた椅子、テーブル、床、磨かれたそれらに反射するオレンジ色の照明――

私のお気に入りの店だ。

私行きつけのコーヒーに、私の彼氏はミルクを入れてしまう。

スプーンでくるくると渦を描き、その縁から細くミルク垂らして。

中心へ向かってとぐろを巻く白を見つめながら彼が口にしたのは、別れ話だった。

どこか落ち着ける場所で話をしたい……そんなことを言うからここを選んだのに、まさかそんな話とは……。
< 1 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop