キミとネコとひなたぼっこと。~クールな彼の猫可愛がり方法~
廊下を数歩歩くと一つの扉があり、『入院室A』と書かれたプレートが提げてあった。
ここだろうか?と窺いながら扉を軽くノックしてみるけど……返事はない。
間違えたのかと思い、辺りを見渡してみるけど他には扉はなく、やっぱりここしかないと、私はその扉をそっと開けて、部屋の中を覗き込んだ。
「……失礼しま」
「こーら。やめろって。くくっ」
「!」
……虎谷先生の声?
いやでも、何となく声のトーンが違うし、もしかしたら堤先生だろうか。
堤先生とはお話をしたことがないから、どんな先生なのかほとんど知らないのだ。
森本先生の後輩だっていうし、いつかは挨拶に行きたいとは思っているんだけど。
声の方を見てみるけど、後ろ姿しか見えなくて、誰がいるのかわからない。
「あーもう、仕方ねぇなぁ~。ちょっとだけな。おいで」
その人が「よしっ」と言って身体の向きを変え、その拍子に横顔が見えた。
……あれ?あの横顔って……。
私の目に映るのは、ピシッと決められた髪型、背格好、そして端正な顔立ちを持っている男の人で……それはまさに、虎谷先生に間違いない。
……でも。
その手にはまだ身体の小さなチャトラ柄の子猫を乗せていて……その表情は、診察室で一度も見たことのない笑顔。
横顔が見えるだけだとは言え、その表情に笑顔が浮かんでいることははっきりと見てとれる。
……というか、笑顔というよりも、『デレデレ』という言葉が似合う気がするほどの緩んだ表情だった。
楽しそうにくすくすと笑いながら子猫の首元をつまむようにさすっている先生と、みゃあみゃあとコタロウよりも高くて細い鳴き声で鳴く子猫とのツーショット。
……そう。まさに、虎谷先生は子猫と『戯れて』いるのだ。
子猫も目がとろんとしていてすごく気持ち良さそうな表情で、ゴロゴロと喉を鳴らし始める。
ネコに夢中なのか、先生は私のことには気付いていないようだった。
本当に……あの虎谷先生、なの?
いつもとは違う虎谷先生の姿に、私は心臓がドキドキ鳴っているのを感じながら、呆然とその光景を見つめてしまっていた。