キミとネコとひなたぼっこと。~クールな彼の猫可愛がり方法~
 

つつみぎ動物病院に到着し、そのドアを開けると、いつもは患者さんで溢れていて騒がしい待合室はしんと静まり返っていた。

待っている患者さんは白い小さなふわふわの入った小さなゲージを抱えている男性だけだ。

もしかしたら午前中に患者さんが多かったのかもしれないけど、こんなに患者さんが少ない時間もあるんだな、と思う。

患者さんが少ないなら待ち時間も少なくて済みそうだ。

早く家に帰れそうだと嬉しくなった私は、真っ直ぐ受け付けに向かった。


「こんにちは」

「こんにちは。今日はどうされました?」

「ご飯をそろそろ買っておこうと思いまして。アレルギー用のご飯なんですけど、在庫ってありますか?あ、坂本です。ネコのコタロウです」

「お調べいたしますね。掛けてお待ちください」

「はい、お願いします」


動物看護師さん……西岡さんじゃなかったから、虎谷先生は診療中なのかもしれない……が、部屋の奥に入っていく。

いつものように患者さんがいっぱいの待合室だと立って待つことが多いけど、今日は患者さんもほとんどいないし座っちゃってもいいよね、と看護師さんに言われた通りに私はイスに座った。

コタロウもいなくて手持ち無沙汰になってしまった私は病院内を見渡す。

すると、壁につつみぎ動物病院で働く獣医さんと動物看護師さんの名前が書かれてあるのが目についた。

いつもは人が多くて周りを見渡す余裕もないし、コタロウのことを気にかけることに精一杯だから、そんな掲示があることにこの時初めて気付いた。

そこにある『虎谷樹(とらたにいつき)』という名前に、私の心臓が小さく揺れる。

……実は、ほんの少しだけ期待をして、ここに向かっている私がいた。

その期待とは……一瞬でもいいから虎谷先生に会えたらいいな、というものだった。

 
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