彼のヒーローヴォイス
その日は突然やってきた。
荒井さんが、榊プロから、独立をして事務所を立ち上げた。
荒井さんは、私にも一緒に来るように言ったけれど…
どうしても、それだけは出来なかった。
理由は…ひとつしかない…。
私と一緒に働いていた三ツ井さんを連れ、荒井さんは榊プロを去った。
その頃は、私も、自分で言うのもなんだけど、一人前のマネージャーとして声優さんたちに認められるようになっていた。
そして、マリアの弟のハルトくんも、着実に声優の道を歩み、
そして…
純一は、今や、榊プロの看板声優として、人気を集めていた。
が、純一とほぼ同じ年齢で、荒井さんのいる事務所に移籍したある人物が
今後期待する若手声優として、純一との人気を二分していた。
彼の名前は『立川 潤』
その姿に、私はどこかで見覚えがあるカンジがして…。
でも、全く思い出せなかった。
純一も、25歳を過ぎて、恋の噂がちらほらと出ては消え、
本当のところは、私にもわからない。
でも、見守ると決心をした私は、なにも言うつもりはなかった。
ただ、事務所が作り上げた
『無口でクール』なイケメン声優
というイメージの純一
に、当の本人は、もがいているのかもしれない、と私は感じていた。