彼のヒーローヴォイス

今朝のことを伝える気持ちが整い、ブランコをつま先で停めた。


「純一、私ね…」

私の向かいに立っている純一の瞳の奥を見る。


「全寮制の碧葉学園に行く」


「え…」


純一の瞳が大きくなった。


「だけど、医者にはならない。 純一が言ってくれたように、私には私の人生がある。
私だって純一と同じ夢を追いかけたい。

碧葉学園のことをいろいろと調べてみたの。 
そうしたら、高校部の演劇部は毎年高校演劇コンクールに出場して、何らかの賞を取っているの。
それに、在学中にいろんなオーディションも受けることができるらしいの。
だから、私、そっちの道から夢を掴む。

純一と同じ土俵に立てるまで、絶対に諦めない。

だから…」


続きを言おうとした瞬間、純一の手が伸びてきて、私の腕を引き、純一の腕のなかにすっぽりとはまった。


あ、あれ…?


「じゅ、純一?…」


私より、頭ひとつ分は大きい純一の腕の中は、なんだかとっても温かい。

何分だろう…1分も無かったのかもしれないけれど、私にはとても長く感じられた。


「よし、これからはオレら幼なじみでライバルだな。」


私の体を離すと、思いついたように言った。

「そうだ。 最初に役を掴んだ方が、アフレコに招待する、ってのはどうだ?」
幼なじみでライバル…。


その言葉に胸の奥が少しチクリと痛んだ…。


「そ、そうだね! どっちが先にアフレコするか競争ね。ガヤはダメよ!
ちゃんと1行だけでもセリフがある役よ!」

「おぉ! そうだな! めっちゃ楽しみだ」


季節は、もうすぐ12月の慌ただしい季節を目の前にした頃のことだった。

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