All my love is for you
そうして秀たちは、出会った所からさほど遠くない所に位置するファーストフード店へいくことにした。
そこへ行く道の途中は一人で歩いていたときよりもいくらかざわめきが増したように思えた。鬱陶しいと思いながら、その黄色い声に軽く答える。
「ところで木野さん、どうしてこんな所にいるんですか?」
「え?」
問うてきたのはロングの子だった。
敬語が使い慣れないのか、それとも秀だからなのか、もとからゆっくりめだった口調が更に遅くなっている。
「確かに此処も東京だけどテレビ局があるわけでもないし」
「今日は仕事無いからちょっと遊びにきてるんだよ、友達の家に。でも今はその友達、仕事行ってるから暇つぶしにどこか行こうかなって思って」
本当はもう少し色々あったけど。
と、そんなことを思っているうちにファーストフード店についてしまった。
「はぁー、やっとついた。暑かったですねー」
先程よりかはいくらかましになった言葉を聞きながら秀は横目で雅を見る。吸い込まれそうな短い黒い髪を風になびかせながらロングの子の口元をじっと見ている。さんさんと降り注ぐ太陽の光を後に、秀たちは店の中へと入った。中はクーラーがよくきいており、外の暑さが嘘みたいで、涼みながら話すのにはちょうど
良いぐらいだった。店の人が少し驚きながら案内してくれた席へ座るや否やロングの子に尋ねられた。「自己紹介はまだでしたよね」と。言われてみればそうだった。と思いきちんと向かい合わせになるように座り、自己紹介を始めた。
「えっと、私は姫野桜です。こっちはーー」
姫野桜。名前に合って、凄く可愛らしい子だ。もちろん『姫野』のほうが。桜のようにしとやかとはいかずに、物凄くお転婆そうだ。外見は。すると横の子を紹介しようとしたのか、手を右に出すとそれを遮るように小さなメモ帳が秀の前に出される。『浅見雅です』そこにはそう書かれていた。
「あ、雅は耳が聞こえなくて。でも普通に相手の話しを聞くぐらいなら出来るから」
ふと、思い出したかのように言う。焦っているのか、タメ口になっている。まぁ、良いのだけれど。
「聞く?聞こえないのに?」
「あ、違った読むか。えーっと、読唇術ってやつ」
「え?できるの?」
そう雅のほうに顔を向けて問う。すると雅は桜のほうへ顔を向け首を傾げる。桜が「読唇術」と言うとなるほどという表情を浮かべこちらを向き、こくこくと頷いた。
「へぇー、そういうのって小説とかでしか聞いたことないなー」
「雅は生まれつき耳が聞こえないから」
「大変なんだね」
すると雅は、メモ帳に黒いボールペンで文字を書き始める。
『確かに分かってくれない人もいるけど、桜みたいな人もいるからそんなに大変じゃない』
紙にはそう書かれていた。その文を読んで感動したのか桜は涙目になり雅に抱きつく。きっとこの二人には色々あったのだろう。外見も内面も正反対な二人にはきっと秀にはわからない何かが。ここで口を挟むのは良くないと思い、秀は店のメニューに目をおとす。
「そういえばなにも頼んでなかった」
「そうだったね」
思い出したように言う桜に秀は答える。
「何でも頼んでいいよ。そのつもりで来たんだろうけど」
というか、誘ったのは秀の方だ。そんなことありませんよー、と言う桜と相変わらずニコニコしている雅。
そこへ行く道の途中は一人で歩いていたときよりもいくらかざわめきが増したように思えた。鬱陶しいと思いながら、その黄色い声に軽く答える。
「ところで木野さん、どうしてこんな所にいるんですか?」
「え?」
問うてきたのはロングの子だった。
敬語が使い慣れないのか、それとも秀だからなのか、もとからゆっくりめだった口調が更に遅くなっている。
「確かに此処も東京だけどテレビ局があるわけでもないし」
「今日は仕事無いからちょっと遊びにきてるんだよ、友達の家に。でも今はその友達、仕事行ってるから暇つぶしにどこか行こうかなって思って」
本当はもう少し色々あったけど。
と、そんなことを思っているうちにファーストフード店についてしまった。
「はぁー、やっとついた。暑かったですねー」
先程よりかはいくらかましになった言葉を聞きながら秀は横目で雅を見る。吸い込まれそうな短い黒い髪を風になびかせながらロングの子の口元をじっと見ている。さんさんと降り注ぐ太陽の光を後に、秀たちは店の中へと入った。中はクーラーがよくきいており、外の暑さが嘘みたいで、涼みながら話すのにはちょうど
良いぐらいだった。店の人が少し驚きながら案内してくれた席へ座るや否やロングの子に尋ねられた。「自己紹介はまだでしたよね」と。言われてみればそうだった。と思いきちんと向かい合わせになるように座り、自己紹介を始めた。
「えっと、私は姫野桜です。こっちはーー」
姫野桜。名前に合って、凄く可愛らしい子だ。もちろん『姫野』のほうが。桜のようにしとやかとはいかずに、物凄くお転婆そうだ。外見は。すると横の子を紹介しようとしたのか、手を右に出すとそれを遮るように小さなメモ帳が秀の前に出される。『浅見雅です』そこにはそう書かれていた。
「あ、雅は耳が聞こえなくて。でも普通に相手の話しを聞くぐらいなら出来るから」
ふと、思い出したかのように言う。焦っているのか、タメ口になっている。まぁ、良いのだけれど。
「聞く?聞こえないのに?」
「あ、違った読むか。えーっと、読唇術ってやつ」
「え?できるの?」
そう雅のほうに顔を向けて問う。すると雅は桜のほうへ顔を向け首を傾げる。桜が「読唇術」と言うとなるほどという表情を浮かべこちらを向き、こくこくと頷いた。
「へぇー、そういうのって小説とかでしか聞いたことないなー」
「雅は生まれつき耳が聞こえないから」
「大変なんだね」
すると雅は、メモ帳に黒いボールペンで文字を書き始める。
『確かに分かってくれない人もいるけど、桜みたいな人もいるからそんなに大変じゃない』
紙にはそう書かれていた。その文を読んで感動したのか桜は涙目になり雅に抱きつく。きっとこの二人には色々あったのだろう。外見も内面も正反対な二人にはきっと秀にはわからない何かが。ここで口を挟むのは良くないと思い、秀は店のメニューに目をおとす。
「そういえばなにも頼んでなかった」
「そうだったね」
思い出したように言う桜に秀は答える。
「何でも頼んでいいよ。そのつもりで来たんだろうけど」
というか、誘ったのは秀の方だ。そんなことありませんよー、と言う桜と相変わらずニコニコしている雅。