K


陽世子の作った卵焼きを口にすると、まだほんのりと温かかった。

彼女の卵焼きはかなり甘い。

俺はこれが好物だった。



「そろそろだね」

「今年は風もないし、晴れてるし綺麗に見えるだろうね」

「学生最後の、花火だあ」



陽世子が落ちた声を出すので、慌てて男2人で慰める。


「いや、来年もあるからまたくればいいだろ?」

「そうだよ、少なくとも俺たちはまだ学生だし」


「うん、そうだよね」



彼女の笑顔が戻ると、俺も螢もほっとする。

俺たちふたりは彼女を大切に、大切にしている。

ある種、癖のようなものになっている。

どういうわけか、高校時代からその癖は変わらず陽世子を甘やかしてきた。


そんな彼女が一番先に社会に出るのだから、不安も不安だ。



それからすぐに、ヒューという風を切る音がして夏の夜空に大きな花火が打ち上がった。


言葉もなく、ただその一瞬の光を追う。



「綺麗…」

「うん」


陽世子は、目を輝かせて花火に見入っていた。


螢と目が合う。


優しく微笑む。



これを女子がされたらイチコロだろうな、と思う。






螢がこういう顔をするようになったのは、陽世子や俺とつるむようになってしばらくしてからだ。







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