サヨナラからはじめよう
待てど暮らせど何も言ってこない私に痺れを切らしたのはアイツの方だった。

「何か言いたいことないの？」

って。

何言ってんだ？
言いたいことって何だよ。
浮気しないで、もうやめて！
そういうこと？
しかも当事者のお前が何言ってんだよ。

その時、すーっと何かが綺麗に引いていく感覚を覚えた。

「もう別れよう」

次に口を開いたときにはそう言っていた。

それまでどんなに辛い目にあっても、一度たりとも口にすることはなかった言葉。
それが驚くほどすんなり口をついて出ていた。
その時のあいつの顔は今でも忘れられない。
この世の物と思えないほど驚いた顔をしていた。

「嫌だ、別れない。別れたくない」

そして次の瞬間にはそう返ってきた。


はぁ？何言ってんの？
こいつはとうとう気でも触れたのか。
散々好き勝手しておきながら別れたくないだと？
どの口がそんなことを言うんだ。

その勝手な言い分に自分の中の何かが一気に冷めていくのを感じた。
< 5 / 280 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop