天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 その視線にあたしは怖気づき、フラフラと目を泳がせる。

 質問どころか声ひとつあげられず、微妙な空気があたしと晃さんの間に漂った。


「ハイハーイ! あたし、質問ありまーっす!」


 空気まったく関係なし! な詩織ちゃんがブンブン元気に手を振り回して、晃さんにアピールする。

 詩織ちゃんありがとう! あなたのその性格、本当に助かる!

 心の中で拝むだけでは足りずに、心の中でご飯とお水も一緒にお供えして彼女に深く感謝する。


「どうぞ、詩織さん」

「イミテーションのダイヤモンドってありますよね? それって簡単にバレるものなんですか?」

「ああ、キュービックジルコニアやモアッサナイトだね? 最近は技術も発達して精巧になっているけど、ちゃんと鑑定すればバレる」

「そもそも、なんで作るかなー? そんな偽物なんか!」


『偽物』?

 詩織ちゃんの嫌そうな声に、あたしの心はピクリと反応した。


「それはそれで必要なんだよ。ほら、結婚式用のティアラとか、あとは工業用の研磨とかに使用する為にね」

「だったらおとなしく、工業用品とか偽物ジュエリーをやってればいいのに! 図々しく本物のふりして騙そうとしたりするから、許せないんですよー!」


 偽物? 本物のふりをして騙す?

 なんだか自分が責められているように感じて、ものすごく落ち着かない。

 その言葉によって、自分の中の無意識の扉をこじ開けられている気がする。

 何かを厳重に隠し続けてきた扉を……。


 ……あたしは今まで、誰にも本当の自分を見せることができずに隠し続けてきた。

 なぜそこまで必死になって、本当の自分を隠したかったんだろう? 


 確かにあたしは、天然ダイヤモンドのような姉とは違う。

 せいぜい人工処理を施して、見た目を整えた宝石だ。

 どんなに頑張っても結局は姉のような評価を得られず、姉が手に入れるような幸福も決して手に入らない。


 でも、欲しくて。

 羨ましくて。憧れて。

 渇望して、渇望して。

 ずっとずっと、あんな風になりたいと願い続けて、真似し続けて。

 でも……なれなかった……。


 ……あぁ、そうか。そうだったのか。


 答え、見つけた。

 あたしが隠したかったもの。


 あたしの素顔は、人工処理を受けた天然石じゃない。

 石ころですらない。

 あたしは……『模造品』だ。


 本物のダイヤモンドを真似て姑息に偽造された、ガラスやプラスチックだ。

 どれほど望んでも本物にはなれない、仮面を装った、ただのイミテーションなんだ……。
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