天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
「別にイミテーション自体が悪いわけじゃないさ」

「だってー。偽物が本物のふりして売られてたら、晃さんどう思います?」

「当然、そんな事をする人間は軽蔑するとも」


 ズキッと心臓にナイフを刺されたような痛みが走った。

 軽蔑という言葉が、息が止まるほど強烈にあたしの心を掻き乱す。


「そうですよねー。本物を求めている人に、偽物だと知りながら売りつけるなんて最低ー」

「そういった事をする人間は、宝石を愛する全ての人間を侮辱しているよ」


 本物を求める人。

 それは晃さんだ。本当に美しいものだけを望み、愛して、追及する人。

 それを知っていながら、あたしは彼に擦り寄った。

 自分がイミテーションである事を充分に知りながら、それを仮面で隠して。

 本物である姉の存在をコソコソと隠し続けながら。


 最低だ。これじゃ、あたしを騙して利用し続けてきた最低な男達と同じじゃないか。

 気付いてしまった以上もう、そんなヒドイ事は晃さんにできない。


 やっぱり……あたし達はもうおしまいなんだ。


 やっぱり、あたしの運命はこうなるんだよ。

 いつまでたっても、どこまで行っても、何も変わらない。

 結局イミテーションはイミテーションに相応しい人生しか無いんだ。

 だってあたしは、仮面を被った偽物なんだから。


「おっと、もうこんな時間だね。今日の講習はここまで。次回まで復習しておいてください」

「はーーーい!」

 ふたりの会話が別次元のように聞こえる。

 まるで入り込めない境界線の遥か向こうから聞こえてくるようだった。
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