天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 ダイヤモンドは傷付かない。

 でも実際は、瞬間的な衝撃に対しては非常に脆い。

 うっかりどこかにガツンと強くぶつけたりしたら、アッサリ割れてしまうかもしれないんだ。

 無残に、砕けてしまうのよ……。


 ――トン、トン

「聡美、あたしだけど」


 扉をノックする音と遠慮がちな声に、あたしの胸がザワッと波打った。


「……なに? お姉ちゃん」

「夕飯、途中でしょ? お父さんもうダイニングにいないから食べちゃいなさい」

「いい。いらない」

「そんなこと言わないの。お腹空いちゃうわよ?」

「ダイエット中だからいいの。心配しないで」

「聡美ったら、またそんな」


 お姉ちゃんの困惑が、扉越しに伝わってくる。

 ……分かってる。お姉ちゃんも気にしているんだ。

 自分のせいで今まで妹が、人生どんだけ割を食ってたかを十分に知っているんだろう。

 だから何かあるといつもお姉ちゃんはあたしを庇うし、味方をしてくれる。


 そしてあたしは、自分のコンプレックスのそもそもの原因である姉に守られて、女神のように手を差し伸べられるんだ。

 それが……どんなに辛いことか。


「お姉ちゃん」

「なに? 聡美」

「……ありがと。ごめんね……」


 分かってるの。お姉ちゃんは全然悪くない。お姉ちゃんに責任なんて全く無いんだよ。

 気を使わせちゃってごめん。いつもお父さんとの板挟みさせちゃって、ホントにごめんね。

 だけど、だけど。


 あたしはもう、その次の言葉を言えなくて。

 しばらく漂う沈黙の後で、お姉ちゃんが扉の前から無言で立ち去る足音を聞くばかりだった。
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