天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 何も言ってないのに、ひと言も話していないのに、心の中を見抜いてあっという間に癒してしまう。

 それはとても心地良くて……不安だ。

 彼に覗かれたその先の、行き着く先を考えるとすごく怖い。


そ こに彼が見つけるものは、究極のあたしの負の感情。コンプレックスの大根源。

 ザ・お姉ちゃん。


 彼があたしの仮面の下を掘り下げ、見抜き、それに癒されるたびにあたしはとても不安になってしまう。

 いつか彼がお姉ちゃんの存在に辿り着く時が、震えるほど恐ろしい。

 そんな時を迎えたくない。傷付きたくない。痛い思いをしたくない。

 だけど。


 あたしの脳裏に浮かんでくる、あの真珠婚式のご夫婦の姿。

 たくさんの痛みを包み込み、輝きへと変えてきたふたりは今も恐れずに立ち向かっている。


 …………よし!!


 あたしは息を大きく吸って、ふうぅぅっと吐き出した。

 そうやって落ち着こうとしたけど、この心臓のドキドキと緊張は消えてくれない。

 なにせこれから人生初体験をしようとしてるんだもの。


「あ、あの、晃さん」

「なに?」

「この前の、お食事の、話……今度、一緒に、行きま、せんか?」


 晃さんが目を見開いて、あたしを見つめた。

 男性を誘うなんて生まれて初めての体験に、恥ずかし過ぎて思わず視線を逸らしてしまう。

 それだけじゃ耐えられずに、ものすごい高速で瞬きを繰り返した。

 うおわぁ、周りの景色がパラパラ漫画みたいに見えるよ。
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