天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
 か、顔がメチャクチャ熱くて、どぉっと一気に汗が出てきた。

 どうしようメイク崩れる! お願い、ここで負けるなファンデーション!


「…………」


 晃さんはずっと黙ったままで、この沈黙がたまらない。

 お願い晃さん早めにご返答お願いします! あたしもメイクも、あんまり持ちこたえられそうにないんです!

 身悶えているあたしの姿をしばらく眺めていた晃さんは、ようやく、楽しそうな声を出した。


「あれ? でも聡美さんって忙しいんじゃなかったっけ?」

「……ヒマに、なりました」

「ふうん。いつから?」

「……たった今から」

「でも今、展示会期間中で忙しいから時間無いはずだよね?」

「でも24時間やってるわけじゃないですよ! コンビニじゃないんですから!」


 思わず吐き出すように叫ぶと晃さんは大笑いした。

 あたしは赤い顔をますます赤くして、そんな彼を睨み上げる。

 う~、この前の仕返しして遊んでるなぁ!? くっそぉぉ~~!


「うーん、そうだな。でも、食事はね」

 晃さんは顎に手を当て、思案顔になる。

 その様子を見てあたしの興奮はいっぺんに冷め、ズーンと沈んでしまった。

 仕事、忙しいのかな? それとももう誰か別の人を誘っちゃったのかな?


「これ、なんだか分かる?」

 アキラさんは胸ポケットから、透き通る紫色のルース(リングなどの枠や台にまだつけられていない、カットされた石)を取り出して見せた。

 紫水晶だ。


「アメジスト、ですよね?」

「アメジストの名前の由来は『酔っていない』って意味。古代ギリシャ人やローマ人は、酒の席にアメジストを身につけて酔い防止のお守りにしたんだ」

「へえ」
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