恋ごころトルク
 ファストイン、ファストアウトだっけ。車の時に習ったな。外周は長短の直線それぞれ2本と、カーブ4つ。カーブの前でスピードを落として、カーブ終わりあたりでスピードを上げ、抜ける。そうだ、この感じだ。1速から2速へギアを上げる。なんとなく分かる。MT車と一緒。車の免許、MTで取っておいて良かった。3速に上げるのはまだちょっと怖い。速度も20キロ行くか行かないか。ゆっくりだから先生もそれに合わせて走ってくれている。

 3週ほど走っただろうか。発着点に向けて先生のバイクは左ウインカーを出す。あたしもそれに習って合図を出す。発着点には番号の付いたポールが立っていて、そこに合わせて停車することになっている。

 先生が止まったので、あたしも止まった。ほっと一息って感じ。

「どう、慣れた?」

 先生がバイクを降りて、声をかけてくれた。

「は、はい、なんとか」

「じゃあ降車してくださーい」

 お、降りるの……ちょっと待って。

「後方確認、必ず確認ね。安全確認してから降りてください」

 左右後方確認して、ハンドルを持ったまま、降り……降り……。

「うわっわわ」

 左足一本になってバイクからお尻を外すと、バイクがバランスを失って倒れそうになる。

「おっと」

 先生が手を貸してくれた。乗り降りするのも一苦労だなぁ。倒れるんじゃないかとドキドキする。

「はい、じゃあ今日はここまで。どうでしたか?」

 もう1時間終わったんだ。初めての教習、なんだかテンパったままで終わってしまった。

「ちょっとバランスがうまく取れなくて、倒れそうで怖いです……」

「バイクはバランス感覚で乗るものですからね。慣れますよ、大丈夫」

「はい……」

「はいじゃああそこに並べて止めて」

 あ、あそこ。バイクが3台ほど並んで止めてあるんだけど、そこまで、この重いバイクを押して行けと……まじか。

「……うう……うんしょ、よいしょ、よいしょ……とと」

 バックで重いバイクを押して行くって、なんて辛いんだ。なんの罰ゲーム……!! 倒れそうでふらふらするので、先生が手を貸してくれた。

 隣のバイクにぶつかりそうだから切り返して、またバックで押して……なんとか止められた。

「はぁ……重いよお」

「大丈夫。慣れるから」

「はい……」

 さっきから元気の無い返事ばかりしてる。少し、少しだけだけど、二輪教習に来たことを、後悔している。こんなに重いとは思わなかった。タンクに砂詰まってんじゃないの……?


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