恋ごころトルク

「ちょっと貸してごらん」

 先生と交代する。「こうやって、腰でね」と言いながら先生はするっとバイクを起こした。なんで! 女だから非力とか関係無いんだよね、だって他に女性居るし、大型二輪教習やってる女性も居るんだもの。

「……というわけでね、では、早速乗ってみましょうか」

「は、はい」

 え? もう乗るの? 起こせてないんだけど……引き起こしができないからって次に進めないわけじゃないんだね、この教習所は。

「順序としては、後方確認、スタンド払って、後方確認。右後方重点ね、向こうに倒れたら危ないから。そして乗車。はいここまで」

「はい」

 後方確認……スタンドを! 払って! うお……なにこれ……重いよお……。もう倒れそうだよ、重いよ。グラグラするんだけど。恐る恐る、シートに跨った。160cmちょっとの身長なら、足は着く。

「はい、ミラー調整して、キー回して、エンジンスタート」

 先生のバイクのエンジンがかかる。ついに走るんだ。

 真似して、右ハンドルの付け根にあるスターターを押す。キュルキュルブボボボボン。おお、エンジンかかった。

 足の間でエンジンが震えてるのが分かる。振動が伝わる。凄いなぁ。これがバイクか。

 アクセルとブレーキ。さっき説明があった。左足でギアを変え、右手がフロントブレーキ、右足がリアブレーキ。ああ、なんか感覚としては自転車と似てるか。ギア変換をうまくできるかどうか。車を思い出そう。

「ちょっと発進してみましょうか。クラッチ握って、ニュートラルからギアひとつ踏んで1速。ゆっくりアクセル回して、ゆっくりクラッチ放す」

「1速、アクセル……」

 ガクン! ああ、エンストだ。「ギアをニュートラルに戻して、エンジンスタートさせて」と言われたから、左足のギアをひとつ戻してニュートラルに入れて、スターターを再度押す。

「右足は出さないように。ブレーキ効かせることと、轢かれるからね」

「はい」

 すうっと静かにクラッチを繋がないと、さっきみたいにエンストする。両手両足を使って操って、全身使ってバランスを取るんだ。

「お……動いた」

「はいはい、じゃあコース出ましょう」

 え、もうコース出るの? 怖いんですけど! 先生が、着いて来いと言う。コースに出るけど、他の車両も走ってる。普通乗用車はもちろん、トラック、バス。普通二輪と大型二輪。

「こ、こわい」

 ブーンと先生は行ってしまった。あたしはモタモタしつつ、そろそろとバイクをスタートさせ、コースに出た。走り出したらふらつきながらも、前に進むんだと分かる。これも自転車と一緒かも。あたし、自転車に乗れる人間で良かった。

< 32 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop