図書館からはじまる



太田さんが、会社から出てくる保証もないし…


もしかしたら、今日は風邪を引いてしまって、お休みかもしれない…


そんなことを考えてたら、一時間を余裕で過ぎていた。


一時間も待ったし、やっぱり出て来ないし、帰ろうかな?


そう思ってビルに背を向けて歩き出した、その時の後ろから声を掛けられた…


「瞳子ちゃん?」


「え?」


私は、その声に聞き覚えがあり、振り向いて声の主を探した。


「元さん?」


「久しぶりだなあ、瞳子ちゃん」


元(はじめ)さんと呼んでいるが、年は、80歳ぐらい。


私の祖父の大親友で、昔、祖母を取り合ったらしい。


で、祖父が勝って祖母と結婚した。


元さんは、よく家に来て祖父と囲碁や将棋をする。


そのついでに、よく遊んでくれた。


もう一人のおじいちゃんみたいな存在。


「瞳子ちゃんがどうしてここに?」


「元さんこそ」


「あぁ、わしはここにちょっと用事でな…」


「私は、ここの会社の人を待ってるの」


「そうか…富ちゃんとツルさんは元気かい?」


「もちろんです」


「また、行くと伝えといてくれるか?」


「わかりました」


元さんは、後ろにいた男の人と帰っていった。


用事ってなんだろう…


私は、元さんが何をしている人なのか知らない…


そういえば、「元さん」って呼んでるから、苗字も知らない…


ただ、元さんが祖父と大親友ってことしか知らない。


「のっぽさん?」


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