秘密が始まっちゃいました。
荒神さんの瞳からするすると涙がこぼれ落ちた。


「荒神さん……」


「奥さんの顔を見たら、俺、絶対に泣いちまうってわかってたから。そんなことしたら、奥さんの死亡宣告みたいだろ?だから、会いたかったけど、会いに行けなかった。
奥さんは病院に戻って、一週間後に息を引き取った。俺は親不孝者だ。あんなに優しくしてくれた奥さんに会いに行ってやれなかった。おやっさんも支えてやれなかった……。俺が弱いばっかりに……っ」



荒神さんが振り絞るように言って、それから嗚咽した。

私は迷うことなく荒神さんの肩を抱いた。
広い背中に手をまわし、震える身体を支える。


「そんなの、泣いて当たり前ですよ」


私の声も震えていた。
彼のまだ癒えぬ悲しみに触れてしまった悔恨と、苦しむ彼に寄り添いたい気持ちが胸を埋める。


「あなたは弱くない。何にも悪くない」

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