秘密が始まっちゃいました。
「申し訳ない。ちょっと携帯が通じないみたいで。連絡を欠かすような男ではないんですよ。いやはや、もう少しお待ちいただけますか?」


私は立ち上がった。
そして、和室の入り口まで移動すると、場にいる二人に向かって、膝をつき頭を下げた。


「申し訳ありません!」


土下座の格好の私に好子おばちゃんが驚いた声をあげる。


「どうしたの!?日冴ちゃん!!」


「この期に及んで何をと思われるかもしれませんが、このお見合い、やはりご遠慮させてください。誠に申し訳ありません!!」


私は大声で言い放ち、すっくと立ち上がった。
呆気にとられる二人を置き去りに部屋を飛び出し、料亭の廊下を勢いよく駆け抜ける。

料亭の建物から飛び出し、先の橋まで向かう。
池のほとりに荒神さんの姿はもうなかった。
どこに行ったのだろう。

私は辺りを見回し、散歩道として整備された庭園を再び走り出した。

振袖の裾がはためく。草履が走りづらいったらない。
髪にかんざしや造花なんかつけてもらうんじゃなかった。

それでも、私は走った。
もうここにはいないかもしれない。
でも、今すぐ会いたい。
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