きらいだったはずなのに!
6.忘れたいこともある
 
 あの後、ひとりで考え込んでいると、気がつけば桐島さんが家に来る時間になっていた。


 ないも同然な知能で悠斗のことを考えて、中学の時を思い出して。


 そんなことをしていると時間が過ぎるのはあっという間だった。


 考えたってわからないものはわからないけど、考えずにはいられなかった。


「……おまえ、なんかあった?」


「え?」


 あっという間に迎えた、カテキョの時間。


 あたしの目の前、頬杖をついて言う桐島さん。


 勉強開始早々に、桐島さんにそう聞かれた。


 なんで『なにかあった』って気付かれたんだろうなあ。


「え? じゃなくて。さっきから手止まってるし、上の空でしょ」


 そう言った桐島さんが指をさすところは、あたしの手元のノート。


 今日はたしか数学のおさらいをするって言って、それをノートに解いているところだったはず。


 ……なんだけど、目線を下に移せば、そのノートには問題の方程式がたった一行書かれただけで、あとは白紙だった。


 かろうじて手にシャーペンは握っていたけど、芯は折れていて出てなかった。


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