おかあさんになりたい。 ~天使がくれたタカラモノ~
「このまま赤ちゃんがお腹にいると、感染してしまって大変なことになるから…手術しなきゃならないね。」



手術………?



私が………?


入院さえしたことない健康そのものの私が………?


「手術は…どうしますか?前、通っていた病院がいいかな?」


「………………はい…」



何も考えられなくて、話なんかほとんど聞いてなかった。
手術の説明なんて、今頭に入るわけがない。
私にできるのは、力なく返事するだけ。


脱け殻みたい…


私はそこにいなくて、遠いどこかからその光景を見てる。
そんなかんじ。


「一筆かいておきますね。じゃあ。前で待ってて。」


「…………」



最後に手渡された………


赤ちゃんの最後のエコー写真………




目も口もしっかりした生きた証の写真。



4.9センチ……


昨日より2ミリも育ってる…。
ついさっきまで生きてたの…?




ほんのちょっと…ほんとにちょっぴり5センチに足りなかった…

越えられなかった…5センチの壁。








診察室を出ると、眩しすぎる、さっきとはまるで違った世界が広がっていた。




ここはどこだろう…

私は何をしていたの?





まるで記憶喪失になったみたいに、何もわからなくなってしまった。





苦しい…
詰まっていた胸に酸素を肺に取り入れるように息を吸う。



力が抜けるように椅子に座ると、窓から夏の強い日射しが降り注ぐ。

無心で空をただ眺めた。






「山本さん。」

優しそうな助産師さんが声をかけた。


「これ、病院に持っていってくださいね。」

「……はい。」


何かその差し出している封筒について説明してるけど聞こえない…

頭が全てを拒絶してる。


「お大事に…」




お会計を亡霊のような足取りで済ませ、大学病院を出た。
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