レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
ヴァルミア伯爵という人
 熱烈な拍手と共に、芝居の幕が下りる。数度のアンコールの後、エリザベスは立ち上がった。
 ここまで来る時は、リチャードの車だったけれど、帰りはヴァルミア伯爵の車だった。レディ・メアリがそうするよう言ったのは、リチャードには聞かせたくない話をエリザベスとするつもりだったからである。

「今日は楽しかったわ。また今度ゆっくり会いましょう」
「うん、またね」
 リチャードと別れて、エリザベスはヴァルミア伯爵家の車に乗り込んだ。レディ・メアリを真ん中に伯爵と三人横に並ぶ。車は静かに走り出した。
「ねえ、エリザベス」
 レースの手袋をいじりまわしながら、レディ・メアリは口を開く。

「リチャードの招待に応じるつもり?」
「いけません?」
 正面を向いたまま、エリザベスは肩をすくめた。叔母が何を言おうとしているのかはよくわかっている。そして、エリザベスの予想は裏切られなかった。
「……付添人もいないようなパーティーでしょう?」
「あら、いやだ」
 エリザベスはハンドバッグを開いて、招待状を取り出した。けらけらと笑いながら、それを叔母の方へと差し出す。

「叔母様何を想像なさっているの? 大人の方がいらして困るようなパーティーなら、叔母様の目の前で誘ったりはしないと思うわ」
「でもねぇ」
「メアリ、そのあたりにしておきなさい」
 ヴァルミア伯爵が口を挟む。寡黙な人なので、めったに口を開くことはないのだがそれだけに口を開いた時の説得力は大きい。
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