レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 そういった意味でも、リチャードの集まりに参加するのは有効だろう。彼は、エリザベスとは違って社交界に顔がきく。
 キマイラ研究会、という単語が頭の中を横切った。
「そう言えば、キマイラ研究会なんて話も聞いたっけ……」
 毎日忙しくしているから、
 テレンス・ヴェイリーが流してくれた情報だ。リチャードも加わっている、のだとか。
 錬金術だなんてばかばかしいと思うけれど――今度来るリチャードの友人の中にキマイラ研究会のメンバーはいないのだろうか。

 誰だっけ? エリザベスはテレンス・ヴェイリーの流してくれた情報を頭の中から引っ張り出そうとする。
「ああそうだ、オルランド公爵……!」
 ばしゃりとお湯をはねた。
 オルランド公爵と、若い貴族だ。いわゆる名門貴族で、エリザベスよりは少し年上――いや、二十代も後半にさしかかっているか。

 エリザベスのように商売などせず、領地から上がる収入だけで暮らしている。
 年齢を考えれば結婚していてもおかしくないのだが、まだ独身だというような噂を聞いていた。
「……正面きってたずねても答えてもらえないでしょうねぇ」
 リチャードに聞いたところで、キマイラ研究会などといった怪しげな集まりについては口を濁すはず。

「やっぱり、ただ者じゃないのね、テレンス・ヴェイリーは」
 どういった理由で彼の元に情報が集まっているのかは、エリザベスにはわからない。アンドレアスとの関わり方を考えれば、おそらくは――という予測はつくけれど。
「……何かないかしら」
 エリザベスは考え込んだ。
 頭の中にもやがかかってくる。もうとっくに日付は変わっているのだから当然かもしれない。あきらめて浴槽から出ると、エリザベスは素早く寝支度をしてベッドへと潜り込んだ。
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