レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 そして、パーティーの当日。何とかロイの礼儀作法はぎりぎりラインにまで到達した。少なくとも何か不手際があったとしても、貴族階級ではないから申し訳ない、でごまかすことができそうな程度には。

「リズお嬢さん、こんな感じ?」
 ドレスに着替え、マギーに化粧してもらったロイは大変可愛らしくしあがっていた。「いいわ、上出来」
 薄いピンクのフリルを多用したドレスを身につけているのは、どうしても少女の身体とは違う彼の身体の線をごまかすため。襟は高くなっていて、彼の喉はほとんど覆われていた。

 まだエリザベスが袖を通していないドレスにちょうどいいものがあってよかった。泊まりに来ている友人に、エリザベスのドレスを貸してやったという体裁だ。
 エリザベスは白いドレスを身につけていた。ロイとは対照的に胸元が広く開いている。エリザベスの喉には白い真珠が巻きついていた。

 ロイの方は、小さな耳飾り以外、装身具は身につけていない。レースの手袋の手が落ち着かないというようにスカートを握りしめていた。
「大丈夫。可愛く仕上がっているから」
「一発でばれるとは思ってないですけど。俺だってなかなかいけてますよ。これで会場中の男どもをめろめろにしてやりますよ」
 ロイはにやりとする。女装に案外気合いが入り始めているのかもしれない。

「お嬢様。迎えの車が来ました」
 パーカーが告げる。不安だというように、その目はエリザベスとロイを往復していた。後から聞かされたパーカーはこの作戦には大反対だったのだが、エリザベスが強引に押し切ったのである。彼が胃のあたりに手を置いているのに気がついたけれど、エリザベスは何も見なかった風に装った。

「いいわ、行きましょ」
 エリザベスはドレスの裾を翻して立ち上がる。何が待っているのかはわからない。けれど、何でもいいから情報を仕入れるつもりだった。
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