レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 捜査については警察にまかせておけばいいのに、自分で乗り込んだ。本来なら、きちんと警察に話をするべきだったのだ。
 
 たとえ、警察がエリザベスの話を信じなかったとしても、だ。
 けれど、エリザベスは自分で乗り込むことを選択した。
 どうしても取り戻したくて――屋根裏部屋になんて放り込んでおかないで、自分の部屋に置いておけばよかった。そうしたらきっと、盗まれることなんてなかった。
 手の届くところにおいておきたくなくて、でも捨てられなくて。自分自身の弱さが、今の事態を招いたのだと思えば腹も立つ。

 扉の前に座り込んでいたエリザベスの耳に、こちらへと戻ってくる足音が聞こえてきた。そして、廊下においてある飾り台に何かを置く気配が続く。
「お嬢様、サンドイッチとお茶をお持ちしました。後で召し上がってください――今日のところは、これ以上は言いませんから」
「……パーカー……」
「はい、お嬢様」
 彼の名を呼んではみたけれど、そこから後は言葉が続かない。出てくる言葉を見失ったエリザベスは、扉に背中を預けて座り込んでいるだけだ。
 
「お嬢様……どうか、ご自分をあまりお責めになりませんよう」
 それだけ言い残して、足音は再び扉の前から遠ざかっていった。階段を足音が下りていくのを待って、エリザベスはそっと扉を開いた。
 本当なら、彼はそんなことを口にするべきではなかった。けれど、彼はそうしなかった。

 また一つ、自分を責める材料が増えたことにため息ばかりが零れ落ちる。
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