レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 ——また、オルランド公爵の名前が出た。
 冷え込んでいるエリザベスの心には気づきもしないで、リチャードは無邪気に続けた。

「だから——もし、君が——僕を受け入れてもいいと思ってくれるのなら——」
 少なくとも、エリザベスに恥ずかしくない職を手にすることができた。金銭面での差はどうしようもないけれど。一つ、一つ、言葉を選びながら彼は話し続ける。

「……ごめんなさい」

 口から出た言葉は、エリザベス自身にも思いがけないものだった。

「まだ、考えられないの。あなただからという理由ではなくて……あなたのことは好きよ、でもまだ誰とも考えられないの。メアリ叔母様はきっと怒るだろうけれど」

 抱いている想いは、恋愛感情などというものではないけれど。
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