レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
それでも彼が大事だと思う
 電話を切って、エリザベスは胸を痛めた。
 彼のことは嫌いではない——それでうまくやっていけると思っていたのに。

 つい最近まで、理性と感情は一致させることなんてさほど難しくないと思っていたけれど、どうやらそういうものでもないらしい。

 とにかく、問題の日はリチャードは出かけているということが確認できたわけだ。
 誰との約束なんてエリザベスの踏み込んでいい領域ではないから、正確なところはわからないけれど、今までのことと照らし合わせれば察しはつく。

「……となると、急がないと。マギー、頼みたいことがあるんだけどいいかしら」

 マギーを呼びつけ、歩いて十五分ほどかかる店まで甘いお菓子を買いに行かせる。屋敷の料理人の作るお菓子も当然美味しいけれど、今はマギーを外に出す理由が欲しかった。

 御駄賃を弾んで、マギーの分も買ってよいからと付け足す。

「ありがとうございます、リズお嬢さん!」

 窓からマギーがスキップしながら店の方へと向かっていくのを確認して、エリザベスはクローゼットを開いた。
 できれば黒っぽい服。スカートでは動きにくいからズボンがいい。
< 210 / 251 >

この作品をシェア

pagetop