レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 エリザベスの目の前を何人もの男たちが通っていく。先ほどは後姿を確認することしかできなかったけれど、こうして顔を見てみれば皆、どこか見覚えがあった。

 あちこちのパーティ会場で見かけた顔。貴族たちがいる。それも経済的には苦しいとされる人たちが。見栄のためか、さほど見苦しい恰好というわけではなかったけれど。

 また、マクマリー商会の取引先の主もいた。キマイラ研究会はエリザベスが思っていたより深く根を張っているようだ。

 エリザベスは、細く開いた扉の陰で身じろぎもせず出て行く人たちの顔を見つめていた。

 賢者の石とやらが本物ならば——エリザベスには何ができるだろう。いや、それより盗まれた懐中時計はこの建物の中にあるのだろうか。鍵のかかった部屋が気になる。

 階段を下りてきた人たちは玄関から出て行った。

 一人、その場に残ったリチャードが誰かと話しているのに気づき、エリザベスは目を見張った。リチャードの話している人物のみ、頭からすっぽりと頭巾のようなものをかぶっていて年齢も体型も顔立ちもわからない。

「では、今夜もう一度来てください。あなただけですよ」
「ありがとうございます」

 深々とリチャードは頭をさげる。今夜。エリザベスは顔をしかめた。リチャードは今夜何をするつもりなのだろう。
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