レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
絶対に、負けない
 きっと、パーカーは全てお見通しなのだろう。じーっとパーカーを見ていると、彼は苦笑してエリザベスの前に軽食の載ったトレイを置いた。

「お嬢様を止めても、もうムダだというのはわかっていますからね。一人で行かれて怪我をさせるよりは、お供した方がいいでしょう」

 パーカーが何を言っているかさっぱりわからなくて、エリザベスは首を傾げる。座ったままのエリザベスを高い位置から見下ろしていた彼は、エリザベスの方へ身を屈めた。
 
「……でも」

 このままパーカーを連れて行って、怪我をさせてしまったら。
 怪我程度ですめばいい。もし、もっと重大な事故に巻き込むことになったなら。
 きっと、どれだけ後悔しても足りないだろう。

「書状には、一人で来いとは書いていなかったはずですよ、お嬢様」
「あなたねぇ!」

 思わずエリザベスは声を上げる。
 わかっている。パーカーは正しいのだと頭ではわかっている。
 このところ、自分のとった行動が、誉められたものではないどころか、法的に罰せられても文句はいえないということもわかっている。
 
 ——特権階級だからといって、法律を犯していいということにはならないのだから。
 
 届いた書状に従うのだとしたら、危険のど真ん中に飛び込むも同然なのだから、行くことができないように監禁されたって文句は言えない。
 
「——ねえ、パーカー。何故、昨日あの場所にいたの?」
 
 それはエリザベスの白旗だった。自分で対応したいと思うのなら、パーカーを連れて行くのは必須条件。
 
 サンドイッチを齧りながらじろりと見上げたら、なんでもないことのように彼は笑った。

「百貨店にお買い物にお出かけになりましたね? お買い物が終わってもなかなか戻っていらっしゃらない——お帰りになったら難しい顔をして考え込んでいらっしゃる。何かあるとすぐにわかりましたよ」
「私の行動は、わかりやすすぎたということね!」

 うーと唸っていると、パーカーに頭を撫でられた。
 それは、主に対する仕草ではなかったし、彼を咎めてもよかった。けれど、久しぶりに優しい手が髪に触れて、ほっとしたのも本当のこと。
 
 ぷぅっと頬を膨らませたものの、とがめることはなく二つ目のサンドイッチに手を伸ばす。
< 237 / 251 >

この作品をシェア

pagetop